Requiem IV „Acosta Ñú“
〜バリトン、児童合唱、女性合唱とオーケストラのための〜
Naoyuki MANABE (1971-) Requiem IV “Acosta Ñú“
für Bariton, Kinderchor, Frauenchor und Orchester (2019)
委嘱;
Auftraggeber; Miguel Solano Lopez
2019.11.27 Welt Uraufführung World Premie
パラグアイ国立交響楽団
Willian Aguayo(指揮)
Text;Maritza Núñez
1864〜1870年までパラグアイはブラジル・アルゼンチン・ウルグアイの三国同盟と戦争を行った。
この戦争でパラグアイは成人男性の8割を失い、国土の4分の1も失ったという。
首都アスンシオンが占領された後も戦争は続き、1870年3月1日、当時大統領のソラノ・ロペスが殺害されるまで続いた。
Acosta Ñúはアスンシオン近郊の街。
1869年8月16日、数千人の子供達が参戦し犠牲になった「アコスタ・ニュの戦い」が行われる。
I. Obertura – Sonidos nocturnos del bosque. Ouvertüre – Waldnachtsmusik. 序曲・森の夜の音楽
II. Diana – Tuba mirum. 起床ラッパ
III. Marcha militar. Militärmarsch. 軍隊行進曲
IV. Juramento. Eid. 宣誓
V. Mi héroe, ve con Dios. Mein Held, geh mit Gott. 我が英雄
VI. Pasar lista. Anwesenheitsappell. 名乗り
VII. Campo de Acosta Ñú. Música de guerra. Schlachtfeld von Acosta Ñú. Kriegsmusik. 戦地アコスタニュ、戦場の音楽
-a. Pelota huérfana. Verwaiste Kugel. みなしごボール
-b. Llanto y muerte. Trauer und Tod. 悲歎と死
-c. Respeto. Respekt. 敬意
VIII. Ysapy. Kuarahy. Jasy. El Rocío. El Sol. La Luna. Der Tau. Die Sonne. Der Mond. ウサプ・クアラフ・ジャス。パラグアイの三神
IX. Inmortales. Unsterbliche. 不死身
X. El milagro de la maternidad. Das Wunder der Mutterschaft. 母性の奇跡
XI. Renacimiento. Wiedergeburt. 復活
解説
(随時更新中)
バリトン・ソロ;語り部
女声合唱;女性、母親、および住人を表す
童声合唱;子供と若者を表す
オーケストラ;
Fl.3(Picc.1) Ob.3(E.H.1)Cl.3(B-Cl.1)Fg.3(C-Fg.1)
Hr.4 Tp.3 Trmb.2 B-Trmb. Tuba.
Perc.4
Str.
Acosta Ñúはアスンシオン近郊の街。
1869年8月16日、数千人の子供達が参戦し犠牲になった「アコスタ・ニュの戦い」が行われる。
Maritza Núñezの台本による全11楽章(全11場)からなる『アコスタ・ニュ』
1864年から1870年まで続いた最後期の「アコスタ・ニュの戦い」の行われた1日を、僅かに生き延びた男性である退役軍人、兵力がなく子供達まで動員されたその子供達の心境、そしてその母親、などの姿を描く。
作曲の依頼を受けてから、演奏会まで、非常に短期間であったため、まず台本が来るまでにパラグアイ三国戦争について調べられる限り調べた。日本で得られる情報は非常に少なく、唯一日本語に翻訳されている『パラグアイ戦争史』ジョージ・トンプソン著を見つけた。イギリス人技師でパラグアイに渡り、当時大統領であったソラノ・ロペスの元でこの三国戦争を戦った記録が残されている。ここからこの戦争を知り作曲の構想をまず得ることから始めた。もちろん同時にインターネットでも調べるが、情報は非常に少なかった。
戦争の経緯について私の知り得た情報は以下のものである。
なぜ南米の小国がブラジル・アルゼンチンという大国とさらにウルグアイを敵に戦争を始めたのか?当時ウルグアイとアルゼンチン・ブラジルとの関係が悪化しており、もしその両国に挟まれたウルグアイが侵略されるような事になれば、同じ境遇にあるパラグアイにも勢力が及びかねない。それを恐れたパラグアイがウルグアイを援助しようとした。そしてアルゼンチンとも組みブラジルの侵攻を防ごうとするが、アルゼンチンの情勢が変わり、さらにウルグアイも同盟国側に付き、三国を敵に戦争をしなければならない状況になってしまう。最初は有利に戦いを進めていたが、徐々に体制は変化していく。
1869年首都アスンシオンは陥落し、大統領ソラノ・ロペスは首都を離れ、最終的には北部のセロ・コラでブラジル兵に包囲され戦死した。この1870年3月1日をもって三国戦争は終決する。
この「アコスタ・ニュの戦い」が行われた8月16日はパラグアイでは子供の日になっている。
私はこの作品を作曲している間中ずっと「虫けら」という言葉が頭の中を駆け巡っていた。1人の人間を1つの駒としか扱わない。それが戦争である。曲の中には様々な虫の声や鳥の声が登場する。
I. Obertura – Sonidos nocturnos del bosque.
Ouvertüre – Waldnachtsmusik.
序曲・森の夜の音楽
序曲。
開戦前の深夜・未明。辺りはすっかり寝静まっている。そこから聞こえるのは森のざわめきや虫の声だけである。
「1869年8月16日。パラグアイ・アコスタ・ニュ。
三国同盟軍とパラグアイの戦争。
三国同盟軍は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイで構成されている。首都アスンシオンは占領されている。
パラグアイは少なくとも男性の80%を失った。戦争による破壊・病気・餓えにより。
死の恐怖。
1869年8月16日。アコスタ・ニュの戦いは早い段階で終結に向かった。」
II. Diana – Tuba mirum.
起床ラッパ
「不吉な起床ラッパによって召集された子供達の軍隊。」
《死者のためのミサ曲=レクイエム》の中の《奇しきラッパの響=Tuba Mirum》を意識して作曲。Dianaは軍隊における朝の起床合図。実際は1本のラッパで奏されるようだがここでは3本のトランペットを用いる。ヴェルディのレクイエムのTuba mirum (のやや縮小)のような効果を狙った。
「子供たちの歩兵部隊は彼らの少年時代も捨て去った。アコスタ・ニュの子供たち。
彼の記憶はアコスタの空を覆います。それは千の天を覆うでしょう。
私たちの子供たち。アコスタ・ニュの英雄になった子供。」
III. Marcha militar.
Militärmarsch.
軍隊行進曲
「さぁ、行こう!騎兵銃は準備万端!武器を手に!部隊は進軍!」
子供達は勇敢に声高らかに行進する。
しかしこれは本格的な軍隊ではなく、武器も足りず木の棒を銃器に見せかけている子供の軍隊。勇ましい軍隊の音楽ではなく棒を叩いたり鍋を叩いて士気を高揚させる。
語り部はこの戦争に参加した退役軍人の老人。戦争の本当の姿を子供達に伝えようとするが、士気上がった子供達は老兵の言う事には全く耳を傾けない。
IV. Juramento.
Eid.
宣誓
母親達は子供達を戦争に行かせないよう、守ろうとする。
しかし子供達は高らかに勝利の宣誓を揚げる。
女声合唱
「戦争は子供たちのためにはない!
あなた方は全員戦場で死にます。」
童声合唱
「私たちが自分自身を守らなければ、敵は私たち全員を殺すでしょう。私たちは祖国を守ります。
私たちはアコスタ・ニュの戦いに勝ちます!」
V. Mi héroe, ve con Dios.
Mein Held, geh mit Gott.
我が英雄
子供・ソロ1
「私は戦う、父の名誉のために、今や英雄になった父のために。私も英雄になる。」
母親・ソプラノソロ
「あなたはすでに私の英雄です。私の小さな偉大な英雄。」
VI. Pasar lista.
Anwesenheitsappell.
名乗り
「パラグアイ軍はベルナルディーノ・ガバリェーロ将軍の指揮下にあります。
同盟国の軍隊は、ドゥー伯によって指揮されています。」
ここでの音楽は日本の古の戦場での「名乗」を模した。
「1869年8月16日。 アコスタ・ニュの戦いが始まった。
同盟国には約2万人の男性がいます。 最適に武装されています。
パラグアイ軍は4,500人の戦闘員を超えることはありません。
ほとんどは子供や若者、女性、そして退役軍人の大隊。 彼らの武器は希少かつ不安定です。」
「最年少の少年兵たちのほとんどは武器を背負うこともできない。
他の者は棒を持ち、銃器にみせかける。」
「この棒を持ち銃器に見せかける」という一文は太平洋戦争時に女性などが竹槍を手にし訓練したということを思い起こした。
しかしパラグアイは150年前。日本は75年前。
何れにしても愚かな自殺行為である。
この一文からIIIの子供達の軍隊およびVI、VIIなどでヴァイオリンのcol legno battuto(弓の木の側で弦を叩く奏法)を用い、また鍋を叩いて相手を威嚇している様な音楽を書いた。
VII. Campo de Acosta Ñú. Música de guerra.
Schlachtfeld von Acosta Ñú. Kriegsmusik.
戦地アコスタニュ、戦場の音楽
「1869年8月16日。 アコスタ・ニュの戦い。朝8時」
最初の衝突がはじまる
「アルベス・ペレイラ将軍の皇帝の前衛がカバリェーロ将軍の後衛を攻撃する。」
戦場の緊迫した場面が描かれる。
その「戦場の音楽」の中に3つの子供の歌が挿入されている。
-a. Pelota huérfana.
Verwaiste Kugel.
みなしごボール
「刀の刃は僕の首に曲線の跡を付けた。
僕の頭は適地で転がります。
まるでみなしごのボールのように転がります。
悲しい。 とても悲しい」
-b. Llanto y muerte.
Trauer und Tod.
悲歎と死
「僕は兵士を殺しました。
僕の友人を虐殺した兵士を。
僕は誰も殺したくなかった。
僕は家にいたい。 遊びたい。僕は8歳です。
僕は友達のために泣く。
僕は兵士のために泣く。
僕は祖国のために泣く。
僕は僕のために泣く
でも僕はもう泣くことができません。
一発の弾丸は僕で終わります。」
-c. Respeto.
Respekt.
敬意
「僕は武器を落とした。
ブラジルの兵士が僕を指差している。
僕は彼の目を見る。
彼は僕を撃たない。
僕は武器を取り戻す。
僕は彼を撃たない。
彼は僕の人生を尊重した。
僕はあなたを尊敬する。
彼の軍隊の兵士は激怒し彼を殺した。
僕たちは何人かの生存者のひとり」
「戦闘は午後5時頃まで続く」
「子供たちは斬首されている。
殺害された 何千人もの子供たち」
「ドゥー伯は戦場を燃やすように命令する。 彼は全てを根絶したい。燃え上がった人間の肉の悲鳴と匂いが広がります。伯爵は誇らしげに勝利を噛みしめる。
恥じながら死者はすすり泣く。」
VIII. Ysapy. Kuarahy. Jasy. El Rocío. El Sol. La Luna.
Der Tau. Die Sonne. Der Mond.
ウサプ・クアラフ・ジャス。パラグアイの三神
「1869年8月16日。アコスタ・ニュの罪のない大虐殺は完遂された。」
「ウサプ・露は、大地の心臓部からわき出た。 そして子供たちの血を拭いた。」
「クァラフ・太陽は、宇宙の内蔵から浮かび上がった。 そして彼らの体を保護した。」
「ジャス・月は夜を待たず、罪のない者たちを祝福するために夕暮れにやって来た。」
IX. Inmortales.
Unsterbliche.
不死身
「アコスタ・ニュの子供たちは決して死なないでしょう。
アコスタ・ニュの子供たちは決して死なないでしょう。」
X. El milagro de la maternidad.
Das Wunder der Mutterschaft.
母性の奇跡
「火薬の匂いは消えませんでした。
水は紫を解かさなかった。 (水は血を拭いきれなかった)
私達の心は切り裂かれた。」
「いつもこのように:」
「花の香りが眩しい。
雄大な透明度が小川を滑ります。
母性の奇跡は私たちの心に棲んでいる!」
XI. Renacimiento.
Wiedergeburt.
復活
「私達の死者は決して去らなかった
不思議な時の裂け目を通過します。
彼らは戦場、水、火、空気を浄化する。」
「われわれの大地を再移入するために古代の神々を呼び出す。」
「トゥパは再びわれわれの大地に住みついた
アコスタ・ニュ、子供の国 われわれの大地 パラグアイ
大地は星の群れをつかみました。われわれの大地」
Text;Maritza Núñez
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