笙の調子は他の楽器と共に演奏され古典の演奏の中では聞き取ることが困難な曲であるが、様々な奏法や響きを用いており、笙の独奏曲の原点とも言える。
十数年前より古典の演奏スタイルを崩すことなく、退吹(おめりぶき;同じメロディーを少しずつずらして吹く奏法)を用いて様々な試みを行ってきた。
本来の退吹は3パートほどに分かれずらして吹くのだが、カオスとなってしまいそれぞれの旋律を聴き取ることが難しい。
カオスから少し整理された音楽にするために模索を繰り返した。
調子は多数の「句」から成り立っているが、句の終わりに同音をな額延ばす「三句延替二気早替」(三回ゆっくり息を替え、二回速く替える)と言う奏法がある。
まず3人の笙のみでの演奏では退吹のカオスの中で句の終わりにくると3人の音がピッタリとひとつになる、という演奏方法を行った。(2003年リサイタルVol.3独奏への試み、など)
そしてこの退吹の旋律を最も効果的に聞かせるためには3人ではなく2人である事に気付き多くの試みを繰り返してきた。
笙2管による退吹。
これは伊勢神宮での《盤渉調調子》の全曲演奏など数多く行ってきた。
そしてもう一つの大きな模索は笙・篳篥・笛の「序吹」における二群に分けた退吹の模索である。序吹といわれる演奏方法は拍節のないフリーリズムで演奏される。本来は3パートに分かれ退吹で演奏され句の最後にユニゾンになる演奏方法で演奏されていたと言われるが、現在はユニゾンで演奏されている。
3パートだとそれぞれの旋律は聴き取りづらくカオスとなってしまうが、2パートで演奏するとそれぞれの旋律を非常に良く聞き取ることができる。
この事を利用して笙・篳篥・笛がそれぞろ二群に分かれそれぞれの群の中でアンサンブルをし、群同士では退吹を行い、ある場所に来ると全てがひとつになる、という演奏方法を試した。
(2014年小野雅楽会ドイツ・ギリシャ・スペイン公演。2017年雅楽ヨーロッパ公演。)
今回の《黄鐘調調子》は笙二管で退吹に始まり、ユニゾン、独奏などを交えながら、調子に含まれる雅楽の音楽性や二人の笙奏者の音楽性に焦点を当てた演奏をする。