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2007/08/13
シューマン
歌曲集「詩人の恋」Dichterliebe

第2曲。
“Aus meinen Tr??nen sprie??en”「私の涙から」
昨日に引き続き・・・その2

音楽の友社 新編 世界大音楽全集 シューマン歌曲集I

この曲はごく簡単な
2部形式A(aa)B(ba)という
もっとも歌曲には多い形をとっている。
しかし普通と違うのは
起承転結の「転」であるbの部分。

多くの曲はここにクライマックスを迎え
(大体ここに最高音がくる)
落ち着いてから最後の再現をする、
というのが一般的である。
この“Aus meinen Tr??nen sprie??en”では

Schenk ich dir die Blumen all’,
私はきみにこのすべての花を贈ろう

ともっとも言いたかったことが
これまでにまったく出てこない
低い音域で歌われることが特徴である。
これは意図的に逆説的な
アプローチをした訳だが
このような奥深さがドイツ歌曲の
特徴でもあろうか?

bの部分は詩の内容からも
後半に向けて上がっていっても
いいはずである。
むしろクライマックスは
最後のaの部分に持ってきている。

ピアノのパートにクレッシェンドがあり
歌は最初とほとんど変わらない形なのだが
三連符になっている。

そしてその和音もIではなく
IVへ行くための属七の和音である。

これによってklingen (響く)
という言葉をより強調している。
では、最初から細かく見ていってみよう。

Aの8小節はまったく同じ事を
4小節ずつ繰り返している。

ほとんどcisばかりの音型は
レチタティーヴォを思い起こさせる。

音は4つしかない。。

和音進行も
I→IV→I
とV→I×2
というとても簡単なものである。

特徴的なのは
歌は半終止で終わり
その後ピアノが解決するところである。

何か途中まで言いかけて
言いとどまっているような・・・

別人格の歌とピアノがいて
歌が言えなかった代わりに
ピアノが喋っている

そんな感じがする。
或いは途中まで言いかけて
もじもじしている歌に対して
あざ笑うようにハイおしまい!
と終わらせているような・・・。
ともかくこの4小節はいずれも
終わっているのである。
次の4小節(b)は
終わらない・・・。

半終止のまま
さらに次の2小節目まで
解決を引き延ばすのである。
bの部分は転調の連続である。
E→h→fisと転調してfisのVで半終止する。

9,10小節目で冒頭に出てきた
下降音型を連続させ
休符へと入る手法は鮮やかである。

転調と切迫感、
そして一番大切な部分に
休符を入れる。

しかもその到達点は
歌の最低音である。

そして、ここで初めて
歌と同じ応えをピアノがするのである。

そしてこのcis,eis,gisから
a,cis,e,gの属七の和音への
転調はある意味分断である。

(長3度下の和音に行く転調は
よく用いられるがこれ何って
呼び方だったっけなぁ・・・?)
歌とピアノが一体になったことで
躊躇していた気持ちが一気に花開く・・・

ピアノに後押しされているようでもある。

この曲で唯一たった2小節の間だけ
歌とピアノが一緒に・・・
たった2小節の間だけ・・・

Und vor deinem Fenster soll klingen
そしてきみの窓辺には響かせよう

唯一・・・感情を表に出している一瞬。。。

そして・・・また途中で言い終わってしまう・・・

この不思議な半終止

私には
「こうだったらいいのになぁ・・・」
「そんな訳ない・・・」

という歌とピアノの自問自答に聞こえる。

一つの歌の中に二つの人格・・・

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